緑が少なくなり、木々が葉を落とした頃、冬。

長かった90分の授業が終わって、学内を歩いていた。


菜摘「さーむーいー!」

莉紗「寒い言うなー。寒いんだからっ!」

菜摘「・・・莉紗だって言ってんじゃん」

莉紗「何か言ったかな?なーつみちゃんっ?」

菜摘「いえ、何も」


あたし、浅井菜摘、22歳、大学4年生。


就職も無事に決まり、魔の卒論を除いて、

あとは後期の必修科目の授業を受けに来て、

少ない科目の試験を受けるだけ。

そんな、学生生活最後の冬。


そして、今、あたしと隣で話してるのは友達の安藤莉紗、同じく22歳。

ちなみに、同じ学部・学科。


莉紗「あー・・・暇だね、何かこう、刺激的なことないかね?」

菜摘「何よそれ。普通がいいじゃん、普通が。それに最近まで十分、刺激的だったでしょ?」

莉紗「えー、あ、就活?確かに決まんなくって刺激的だったね、あたしらは。」

菜摘「でしょ?今は息抜き期間よー。」


あたし達は、2人して揃いも揃ってこの大学を出たところで、

何もやりたいことが見つからず、だから、就職先も探さず、ただ学生生活を送っていた。

莉紗に至っては、「彼氏と結婚する」って言ってばっかりで・・・。

そんな中、"焦らず決めていけばいい"って言ってくれたゼミの先生。

だけど、実際焦ってたのはあたし達でなく、やっぱり先生。

この時代に、背くようなたくさんの就職先のリストをくれた。

もしこの中に、1つでも気に入ったのがあったらすぐ連絡くれ、って。

最初は、熱血しちゃって・・・って思ってた。

リストも見ないで机の上に置きっぱなし。

だけど、中学生や高校生でもないのに、こんなに熱を入れてあたし達に接してくれて

段々、心を動かされて2人で真剣にリストを見始めて、

できるかわからないけれど興味の持てそうな分野を

見つけられて、就職先が決まったのが4年の秋の終わり頃。

相当、遅いって思う。


だけど、そんなあたしも一応、必修科目以外の単位の修得はギリギリ終わって

4年後期は数えるぐらいしか大学には来てなかった。

今日は、その"数えるぐらい"の1日。


莉紗「明日も大学だねー。あぁー・・・ダメだ。1限からだよね?遅刻しそう。」

菜摘「2限からの今日もギリギリだったもんね。でもさ、最後くらいまともに行きましょうよ、莉紗さん」

莉紗「最後こそ遅刻したって・・・ってあたしには、余裕って言葉がないか。でもねー・・・起きれないもんは起きれないのよ」

菜摘「ないかもね。彼氏に起こしてもらえばー?働いてるんでしょ?7時にモーニングコールとか?」

莉紗「無理無理無理!健ちゃんにそんなことできるわけない!」


健ちゃんっていうのは24歳で莉紗の彼氏。

そしてあたしらの大学のOBでもある。


悩んで、悩んで莉紗と一緒に最初に勧誘された楽そうな運動系サークルのマネージャー。

そのサークルに入って、半年もしないうちに1年の莉紗と3年の健先輩は気付いたら

いい感じになっていて夏合宿後にはつきあっていた。


菜摘「それもそうだよね。健先輩も相当な遅刻魔だったもんね。」

莉紗「そそそ。今でも大して変わらずだよー。」

菜摘「社会人なのに?ま、とにかく遅刻するなよー?有終の美だけでも飾っとこうよ。」

莉紗「ね?はーい。今日中に寝られるように努力しまーす。」

菜摘「今日中ね、って日付変わる前に寝ないと莉紗は1限に来れないのですかっ!」

莉紗「・・・・・・・」

菜摘「はいはい、もーいいよ。」


それから、あたしと莉紗はお昼を食べようってことになって近くのファミレスに向かった。



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