菜月「…ってことがあったの。」


あたしと有弓は、3限が休講になり、

今日はお互いに1日暇だったので、

昨日あったことをまるまる話していた。


有弓「へぇー。何かドラマみたいだね。」

菜月「確かに!」

有弓「でー…何て言ったっけ?そのー…同級生の人。」

菜月「笹原?」

有弓「そう、笹原くん。気になってたりするの?」

菜月「んー…好きとかじゃない…よ、うん。」

有弓「憧れみたいな?」

菜月「そ。」

有弓「ま、でも菜月は彼氏いるもんね。」

菜月「…彼氏…ね。」

有弓「何何?」

菜月「…別れるかも。てか、別れたいかも。」

有弓「え?!」

菜月「…あたし、大輔のこと好きじゃないんじゃないかなぁ、って最近思って。」

有弓「そうなんだ…。」

菜月「まー…あいつも遊んでるし、軽い感じで別れることになるかも。」

有弓「菜月はそれでいいの?」

菜月「うん。一応、精一杯考えた結果だったりするわけです。」

有弓「そうだったんだ…。何かあったらいつでも聞くからね?」

菜月「うん、ありがとー。」

有弓「で、もう1人の人はどういう人〜?」

菜月「あー…明るい感じで…関西弁喋ってたからあっちの人なのかなぁ。」

有弓「関西弁?」

菜月「うん。どうかした?」

有弓「…こないだ話したあたしの好きになっちゃった人も関西弁喋るんだよねぇ。」

菜月「そうなんだー。」

有弓「うん、M学院大の人なの。」

菜月「…え?M学院大?」

有弓「そう。」

菜月「あたしが昨日、知り合った人もM学院大だよ…。」

有弓「マジで?」

菜月「マジで。え、有弓の好きな人の名前って…」

有弓「伊佐木さんって人だけど。M学院大の2年生だから同い年かな。」

菜月「伊佐木…そんな名字だったかな…。そういや昨日メールもらって…ってか、名前は邦っていうんだけどね。」

有弓「邦?!邦だよ…伊佐木さんの下の名前。」

菜月「…じゃ、有弓の好きな人ってあたしが昨日知り合った人だ!」

有弓「嘘ー!じゃあ菜月は友達になっちゃったんだ?伊佐木さんと!」

菜月「うん、初対面なのにめっちゃ話しかけられて…。」

有弓「あたしのときもそういう感じだったかも。」

菜月「あ、ちなみに邦、学年はあたしらと一緒だけど2個上だって。」

有弓「そうなんだ!てか。邦とか呼んじゃって仲いいー!!!」

菜月「そう呼んでって言うからさー。今度、バイト行ったときでもあたしの話出してみたら?」

有弓「え?」

菜月「知り合いの話から入ればもっと仲良くなれるかもよ?」

有弓「そっか…!了解したよ、菜月ちゃん!」

菜月「ははっ!かーわいい、有弓。」


「誰が可愛いってー?」


菜月「…大輔。」

大輔「よ!暇〜?俺、今日3限休講になっちゃってさー…友達も来てなくて暇なんだよなー。」

菜月「……ちょっとさ、話あるんだけど、いい?」

大輔「んー。」

菜月「有弓、ごめん。」

有弓「全然いいけど…菜月…。」

菜月「だーいじょうぶだって。」


あたしはその後、大輔を連れて大学内を歩いた。


大輔「菜月ー?どこ行くんだよ…話って?」

菜月「あのさ…別れよ?」

大輔「は?ちょ、何いきなり。」

菜月「や…ずっと前から考えてたんだよね。」

大輔「だってそんな素振りなかった…よな?」

菜月「大輔さ…何人女いんの?」

大輔「いねぇって!」

菜月「あー…そっか。浮気はしないんだっけ?」

大輔「当たり前だろーが。」

菜月「でも女の子と遊びすぎ。あたしも彼女じゃなくってその中の1人みたい。」

大輔「…不安にさせてた?」

菜月「ううん、別に。そういうの分かってて付き合ったし。けど、気持ちが…ね。」

大輔「俺のこと嫌いになった?」

菜月「そこまではいかないけど…でも恋愛感情として好きの気持ちが薄れてるかも。」

大輔「…そっか。」

菜月「うん。」


〔ピルルルルルー…〕


菜月「出れば?」

大輔「や、メールだし別に…。」

菜月「貸して。」


あたしはそのとき、ふいに大輔の携帯を取った。


大輔「え、ちょ。」

菜月「安藤莉紗…ちゃんからメールだよ?」

大輔「莉紗はサークルの友達!いつも一緒にツルんでて…今日休んでっからその連絡のはず。」

菜月「ふーん?」

大輔「マジで!」

菜月「ま、いいんだけどさ。」

大輔「…ごめん。」

菜月「あたしこそ。携帯勝手に見ちゃったし。」

大輔「いや、いいよ。…じゃー…俺行くわ。」

菜月「ん。」


大輔と別れられた。

でも思ったよりは引き止めてくれたかな?

あいつは確かに遊んでたけど…

それなりにあたしことをちゃんと想ってくれてたのかも知れないって、

最後になってちょっとだけ感じられた。

だけど、後悔はしてない。


あたしの気持ちはとても前向きだった。








*











菜月「有弓。」

有弓「お、おかえり…。」


あたしはさっきまで、有弓と話していた場所に戻ってきた。


菜月「別れちゃった。」

有弓「うん。」

菜月「あー!でもすっきりした。」

有弓「そっか。…あたしさ、菜月がそんなに考えてたなんて知らなかったよ。」

菜月「えー?何を?」

有弓「彼氏のこと。それなりに幸せなんだって思ってた。」

菜月「んー…まぁ、あたしも最近だからさ。」

有弓「そうなの?」

菜月「うん。何で一緒にいるんだろ?って思えちゃって。」

有弓「そう思い直すようなきっかけみたいのあったの?」

菜月「や、多分特にないかな?急にさ。」

有弓「…そなんだ。」

菜月「ごめんね?心配してくれてありがと。」

有弓「当たり前じゃん!」

菜月「へへ。嬉しいや。」



《ブブブ…》


菜月「あ。」

有弓「どした?」

菜月「邦からだ。」

有弓「…ふーん?」

菜月「…彼氏と別れて10分経ってない女に妬かないでよ。」

有弓「すみません。」


あたしは、電話に出た。


菜月「もしもし?」

邦『あー。菜月ちゃん?俺俺!邦やで。覚えとる?」

菜月「うん。どしたのー?」

邦『何してっかねー、って将貴と話しとったんよ。』

将貴『俺?!』

菜月「あはは。笹原さんの声聴こえたー。今は3限休講になったから友達と話してるー。」

邦『お、そうなんやー。俺らは2限終わりで暇しとったんよー。』

菜月「へぇ。」

邦『良かったら、会わへん?」

菜月「あー…うん、いいよ。」

邦『マジ?じゃあJ大行こか?」

菜月「あ、来る?」

邦『他大に行くのってスリルあるやん。』

菜月「そう?女子大じゃないし…普通だよー?」

邦『ほな、将貴と行くわ。』

菜月「ラジャ!…あ!ねぇねぇ、邦のバイト先にさー…あ…広倉さんって子いるよね?」

邦『広倉さん?おるよ。」

有弓「ちょー?!菜月?!」


有弓が小声でそう言って、隣にいたあたしの腕にしがみついてきた。

あたしは人差し指を口の辺りにあてて、「シーっ」という仕草をした。


菜月「仲いい?」

邦『んー…まぁまぁ話すで?おもろ可愛い子やし。』

菜月「そかそかぁ!実はね、その広倉さんはあたしのお友達でねー。」

邦『え!そうなん?』

菜月「今も隣にいたりするわけですよ。」

邦『ほな、そのままいてもらっててな。』

菜月「はーい。がっちり捕まえとくね。」

邦『お、おぅ。じゃあなー。』

菜月「はいはーい。」


あたしは電話を切った。


有弓「ちょー!菜月ちゃん何言っとん?!」

菜月「…邦の関西弁うつってるよ?」

有弓「う…!」

菜月「邦がねー…有弓のことおもしろくて可愛い子だってー!」

有弓「ぬぁ!そんな…ちょ、えー!でも伊佐木さんよく言いそう…。」

菜月「ネガにならないでよー…。まぁ、でも邦はちょっと軽め?」

有弓「んー…?仕事中は至ってマジメなんだけどなぁ。でも休憩時間に話したら軽めだったかも。」

菜月「とっつきやすい感じだよね。誰とでも仲良くできるような。」

有弓「そうかな?」

菜月「うん、いい人だと思うよ?」

有弓「…てかさ!重大なことに気づいたんだけど!」

菜月「何?」

有弓「流れ的に伊佐木さん、ここ来るんだよね?」

菜月「そうだね。」

有弓「け、化粧ポーチ…髪、髪どうしよ…!」

菜月「…ははっ。もう、本当可愛いなぁ。」

有弓「えへ!惚れないでね!」

菜月「…化粧直してる間、髪やったげるよ、後ろ向いて。」

有弓「あれ?スルー?!」


しばらくして、また携帯が鳴って、邦たちがうちの大学に着いたことを聞いた。

あたしたちは、門の前へと移動した。


菜月「邦ー。」

邦「お!いたいた。菜月ちゃん、広倉さん。お待たせー。」

菜月「昨日ぶりー。」

邦「そやねー。」

菜月「笹原さんも。」

将貴「おぅ。つーか、将貴でいいよ。」

菜月「はーい。じゃ、あたしも菜月で。」

邦「ほな、俺も…ってごめん、広倉さん下の名前何やったっけ?」

有弓「え!あ、有弓です。」

邦「んじゃ、有弓ね!俺も邦でいーし。てか、敬語とかなしでいいでー?」

有弓「え、でも…!」

邦「菜月ちゃんから年齢のこと聞いたんやろ?」

有弓「はい。」

邦「気にせんで。」

有弓「は…うん。」

邦「将貴なんて初めて会ったときからタメ語やったもんなー?」

将貴「そうだったけ?」

邦「そうやで。」

将貴「覚えてねー。」

邦「ま、こいつとは気ぃ合う思うたから、全然気にせーへんかったけどな。」

菜月「あ。そだ、将貴。えとー…この子、広倉有弓。あのときコンビニで一緒にいた…。」

有弓「有弓です、よろしくねー。」

将貴「あー…微妙に覚えてる!笹原将貴です。」

邦「ほいじゃあ、自己紹介も終わったし…どこ行く?」

将貴「あー…どーすっかねー。」

邦「女子陣はどこか行きたいとこある?」

菜月「んー……。どうだろ?有弓何かある?」

有弓「あれは?駅前に新しくできたアウトレット。」

邦「あー。」

有弓「あ、でも菜月は彼氏と行ったん……あ…!ごめ。」

菜月「…大丈夫だから。」

邦「菜月ちゃん、彼氏おるんや。」

菜月「あー…えーっと…。」

有弓「く…邦は彼女いるの?」

邦「俺?おらんよー。寂しくてしゃーないで。」

将貴「あれ?ついこないだ彼女とか面倒って言ってなかったっけ?」

邦「…女の子の前でバラすな、コラ!」

菜月「将貴は?」

邦「菜月ちゃん。こいつにおるわけない!」

将貴「ちょ、それ失礼じゃね?」

邦「少なくとも俺と知り合ってから今まではいないやろ。」

菜月「えー?何かあるの?」

邦「女の子に冷たいんや。こいつ。」

菜月「…へぇ?」


…あたしはそんなふうに思わなかったけどなぁ。

昔の笹原…じゃなくって、将貴は人当たりよくって、

誰からも人気あるようなやつだったような…?

別に今までの会った印象でもそういうふうに思わなかったけど…

恋愛になるとまた違うのかもなぁ。


将貴「どーでもいいだろが。」

邦「あ、怒った!怒ったで。怖いやろー。」

菜月「…邦。からかいすぎだよ…。」

将貴「ったく。」

邦「すいまへーん。」

有弓「…で?どうする?アウトレット?」

将貴「あ、ごめん。俺、人多いとこちょっと勘弁。」

菜月「苦手?」

将貴「んー。あんま得意じゃねーかも。」

菜月「了解。じゃ、自然系?海とかは?近いし。」

有弓「海!いいねーっ!!!海いいよね!邦!」

邦「へ?あー…女子陣がいいなら俺はいいで。」

菜月「じゃ、海にしよっか。」

将貴「あ、言い忘れてたけど…駅前のパーキングに俺の車あんだよ。」

菜月「え!将貴ここまで車で来たの?」

将貴「あぁ。今日は邦のアッシーだったからさ。」

菜月「へ?何でまた…」

邦「地元の電車が朝からトラブルで止まってもーて…遅刻しそうやったから迎え来てもらった。」

菜月「そうだったんだー。」

有弓「邦は免許持ってないの?」

邦「今、教習通ってるとこやねんよ。」

有弓「へー。じゃ、取ったら乗せてね。」

邦「おぅ。いいでー。」

将貴「?!度胸ありすぎ…。」

有弓「え?」

将貴「邦が教習受けてんの見に行ったけど…ひでーの。」

菜月「マジ?」

将貴「超ふらふら運転してた。」

邦「だー!そんなことないで!ちゃんと取って無事に乗せたる!」

有弓「…じゃ、信じて楽しみにしてます。」

邦「おぅ!任しとけ!」

将貴「じゃー…車で行くか。とってくるよ、俺。」

菜月「…あ、あたしも行くー。」

将貴「そう?じゃ行くか。邦たち待ってろよ。」

邦「りょーかい。」

菜月「あ、有弓!」

有弓「ん?」

菜月「ちょ、こっち。」


あたしは有弓を邦と将貴から少し遠ざけた。


菜月「さっきありがとね。」

有弓「え?」

菜月「彼氏のこと。さりげなくごまかしてくれたでしょ?」

有弓「あぁ…いや、でも口すべらしたのあたしだからさ。」

菜月「それでも。助かったよ。」

有弓「ごめんね。」

菜月「全然。じゃ、これから15分くらい2人で楽しんでね。」

有弓「え、まさかそのために着いてくって言ったの?」

菜月「もち。」

有弓「な、菜月ー!」

邦「どしたん、大声だして。」

有弓「あ、いや…。」

菜月「じゃね。行こ、将貴。」


将貴の車をとりに駅前のパーキングまで歩いて行った。

初めて2人きりになっていろいろな話をできた。

あたしの中での印象はよくなるばかりだった。

駅前に着いて、将貴の車の助手席に乗せてもらって、

5分くらいで大学まで戻って、有弓と邦を拾った。

それから、30分くらい車を走らせて海へと辿り着いた。



あの頃は、こんなにも長く一緒にいられるなんて思わなかった。

出会いなんて溢れるぐらいあった学生時代に、

ひとつひとつの出会いを意識したことなんて、

ほとんどなかったからだ。


3.海 ━love talk━

閉じる

女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理