授業が終わった後、あたしは里華に、
「ありがとう」と言って、意を決して1階にあるラウンジに向かった。
エレベーターを降りると、すぐラウンジが見える。
いくつかあるソファーのうちの1つに浩貴を見つけた。
咲「待たせてごめん。」
浩貴「…おー。」
咲「どっか移動する?」
浩貴「そー…だな。静かに話せそうなとことかある?」
咲「んー…っと…じゃあ、図書館の裏にある中庭とか…。」
浩貴「じゃ、そこ行くか。」
それから、2人で、早くもなくゆっくりでもなく中庭へと歩いていった。
その間、あたしたちに会話はなかった。
浩貴「…ごめんな。急に。」
咲「ううん。…あたしこそ昨日はごめん。」
浩貴「…昨日は驚くことばっかだったなー。」
咲「え…。」
浩貴「いきなり元カノと再会して、話してたと思ったら、急に置き去りされるしさ。」
咲「本っ当にごめんなさい…。」
浩貴「まぁ…いいけどさ。」
咲「…でもね、戻ったんだよ。・・・浩貴、いなかったけど。」
浩貴「…咲さ、何かあったんだろ?」
咲「え…。」
浩貴「話し始めてから気付いたんだ。」
咲「…」
浩貴「俺も声掛けちゃ悪かったんかもって後悔したよ。」
咲「何で・・・」
浩貴「咲さ、気付いてる?お前って嘘言うとき服掴む癖あんの。」
咲「へ。」
浩貴「元カレなめんなよ。だから・・・わかったんだよ。イラついてるなんて嘘だって。」
咲「…そっか。」
浩貴「言いたくねぇならいいって思ったんだけど、でも気になって・・・だから今日、来た。」
咲「…あたし…浩貴に聞きたいことある。」
浩貴「俺に?」
咲「うん。…今、彼女いる?」
浩貴「は?…いねーよ。作る時間なんてないし。」
咲「そ…う。」
あたしは浩貴に彼女がいないことに安心した。
次は、今の気持ちを伝えなくちゃ。
浩貴「咲は?」
咲「今はいない。」
浩貴「・・・ふーん。聞きたいことってこれ?」
咲「あたし、ずっと後悔してた。浩貴と別れたこと。・・・だから忘れられなかった。」
浩貴「・・・咲、これ覚えてる?」
そういって、浩貴はパーカーで隠れていた首元から、ドッグタグ・ネックレスを出してあたしに見せた。
咲「それ・・・。あたしがあげた・・・何で?」
浩貴「俺だって咲が嫌いになったわけじゃねーんだよ。」
咲「…」
浩貴「咲が大学に通い始めてからはさ…たまに一緒にいられたって傷つけあうことしかできなかったじゃん。」
咲「…うん。」
浩貴「お互いに幼かったし、ギリギリだったんだよ。」
咲「…うん。」
浩貴「だから、来年、大学受験し直して受かったら、咲に会いにいくつもりだった。」
咲「…え。」
浩貴「咲に彼氏いても奪うつもりだったよ。」
咲「浩貴…。」
浩貴「だから、俺、毎日真剣に勉強してんだよ。」
咲「…」
浩貴「なのに昨日、俺ん家の近くにいんだもんなー…。」
咲「あたし…今も浩貴のこと好き。」
そう言って、鎖を短くしてバックにつけているドッグタグ・ネックレスを見せる。
浩貴「もう、わーかってるって…。」
咲「ちゃんと伝えなくちゃって思って・・・。もう…言葉飲み込んで無理したくないの。」
浩貴「…そうだな。」
そう言ったあと、浩貴はあたしのことを抱きしめてくれた。
あたしは、今自分が大学内にいることなんて完全に忘れていた。
浩貴「そーいやさー…」
咲「ん?」
浩貴「何で咲もこのドッグタグ・ネックレス持ってんの?」
咲「…あ。」
浩貴「影でおそろいにしてたん?」
咲「…というか、これ、もともとペアなの。」
浩貴「ペア?どの辺が?」
咲「ネックレス外せる?」
浩貴「あぁ。」
そう言って、浩貴はドックタグ・ネックレスを外す仕草をした。
・・・それから、1分くらい経っただろうか。
咲「ね、あたし外そうか?」
少し笑いながら、そう浩貴に言った。
浩貴「笑うな!…お願いします。」
咲「普段どうしてるのー?相変わらず不器用すぎ。」
浩貴「誕生日のとき咲につけてもらって以来、外した記憶ねぇもん。」
咲「うっそ!じゃ、1年以上つけっぱなし?」
浩貴「そーなるな。」
咲「うわー…」
あたしは、向かい合ってた体制からそのまま、浩貴の首に腕を回して、
ドッグタグ・ネックレスを外した。
咲「はい。取れたよ。」
浩貴「…咲だ。」
咲「えー?」
浩貴「咲の匂いがする。」
咲「はい?!何言ってんのよ。」
浩貴「やっぱ咲といると落ち着くわ。」
咲「…」
浩貴「なーんて…照れた?」
咲「知らない!」
浩貴「ごめん、ごめん。」
咲「バカ。」
浩貴「まぁでも今のは本当だけど。」
咲「…」
あたしは顔が熱くなっていくのを感じて下を向いた。
浩貴「で?」
咲「え?」
浩貴「ネックレス外してどうすんの?」
咲「あぁあ…忘れてた…!」
浩貴「忘れてたのかよ。」
咲「浩貴のせいでしょ!…これ、あたしのね。」
浩貴「あぁ。」
咲「合わせると、雪の結晶になるんだよ。」
浩貴「あー!」
咲「…気付いた?」
浩貴「付き合う前、会うたびに雪で、俺のコートに雪の結晶見つけてははしゃいでたよなー。」
咲「そ。あたし…あのとき本当に毎日楽しかったんだ。」
浩貴「俺も。」
咲「いくつもの季節、一緒に過ごしてみたいって思ったんだよね。」
浩貴「懐かしいなー…。」
咲「うん。」
浩貴「…俺と付き合ってください。」
咲「へ?!」
浩貴「…って、告白したなーって。で、もう1度言おうかな、と。」
咲「…はい。」
そう言って、あたしは笑った。
きっと、これからもすれ違うことあると思う。
ケンカをすることも、どうしても譲れないことも。
それでも…お互いに自分の気持ちばかりを優先させるんじゃなくって、
どこかで許しあっていくことが大切なんだと思う。
素直に気持ちを伝え合って、後悔なんて二度としないように、
想いはちゃんと言葉にして伝えていく。
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2005/03/07
2009/01/01 edit renewal.
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