あたしは、次の日の朝をベッドの上で座り姿勢のままで迎えた。


『ピピピピピピピピピピピピーッ』


目覚ましの音が頭に響いた。

いつもは、ほとんど聞こえなくて、起きられなくて遅刻をする。

今日は、うるさいくらいだ。


咲「・・・眠れるわけないっての。」


そう時計に向かって呟いた。

大学へ行く気分なんかじゃなかったけど、

準備をして、いつも里華と待ち合わせてる駅へと辿り着いた。


里華「おっはよー。」

咲「・・・テンション高いねぇー。・・・里華さん。」

里華「んー?そういう咲さんは低すぎじゃありません?」

咲「そーね…。」

里華「もしかして・・・何かあった?」

咲「んー…。」

里華「…言いたくないならいいけど…あたしは咲が言うまで待つし。」


あたしは首を横に振ってそのあとに言葉を続けた。


咲「・・・昨日ね、会ったの。」

里華「え?佐野くん?」

咲「うん。」

里華「…どこで会ったの?」

咲「浩貴の家の近くのコンビニに行ったの。モヤモヤしてて気分悪かったからさ。」

里華「うん。」

咲「もちろん、そこでは会えなかったんだけど…帰る気分になれなくて、公園に行ったんだ。」

里華「公園?」

咲「浩貴のアパートの近くにあって、昔は帰るときはいつもそこ通ってたからさ。」

里華「うんうん。」

咲「で、寂しくなって携帯のメモリー中に電話しまくって、誰も暇じゃなくて…叫んだ。」

里華「叫んだ?!」

咲「誰もいなそうだったし…声出したくなってさ。」

里華「う、うん。」

咲「そしたら、浩貴が通りかかってさ。普通に話してたんだけど、耐え切れなくて浩貴置いて逃げてきちゃったの。」

里華「・・・ってことは、何も伝えなかったんだね?」

咲「うん。でも逃げた後、戻ったよ。けど・・・もういなかった。」

里華「・・・会いに行くつもりないの?」


正直、里華に言われてドキッとした。

会いたいのか、もう会いたくないのか、わからなくなってきていたから。


会いたかった。


ずっと。

それで、伝えたいことがあった。


昨日までは。


今となってはわからない。


咲「・・・わからないんだ。」

里華「え?」

咲「浩貴を置いて逃げたのは、諦めようと思ったのか、好きすぎて辛かったのか…。」

里華「…」

咲「浩貴への想いがわからなくなっちゃったんだ。」


この日は、1、2限と里華とは違う授業なので、

大学に着いてから、分かれた。


結局、昨日に引き続き、あたしの頭の中に授業の内容が入ることはなかった。

その後、お昼にまた里華と合流した。

カフェテリアで、お昼のために買ったサンドイッチを食べようとしたら、

里華に、浩貴と出会ったときのことから全部話してくれないかな、って言われて、

いろいろな話をした。

なんで聞きたいって思ったのかはよくわからなかったけど、

あたしは最初から、かいつまんで話を始めた。

お昼休みが半分過ぎた頃には、大体を話し終えた。


咲「…こんなもんかな?」

里華「…うん。」

咲「だけど…何で聞きたいと思ったの?」

里華「咲の今の気持ちもだけど、佐野くんへの想いも知りたかったからな。」

咲「あたしの気持ちと浩貴への想い?」

里華「そう。やっぱりね…あたしが思うには、咲はまだ佐野くんのこと好きだと思う。」

咲「…え。」

里華「佐野くんのこと話してるときの咲の顔、愛しい人に対して話してる顔してる。」

咲「愛しい…。」

里華「ほら、あたしにはさ、佐野くんとのこと後悔してるーって感じでいつも話してたでしょ?」

咲「…うん。」

里華「だから、表情も暗い感じだったんだけどさ…昔の話とか思い出しながら話してる咲の顔は明るかった。」

咲「あ…」

里華にそう言われて、あたしは自分の頬に触れた。


それから、3限の授業を受けるために、里華と一緒にカフェテリアから移動した。

着いた教室は、2限も使われていたようで、暖房が強く空気がこもっていた。

なので、あたしはちょっと飲み物を買ってくると言ったら、里華もトイレへ行くというので、

途中まで一緒に行って分かれた。


「あのー・・・ちょっと聞きたいんですけど、水谷 咲ってこの大学にいないっすかねー?」


トイレ帰りの里華は、男の人にそう声を掛けられた。


里華「咲?これからそこの教室で一緒に授業ですけど?」

「あー…じゃ、伝言頼まれてくれませんかね?」

里華「いいですけど…飲み物買いに行ってるだけなんで、すぐ戻ってきますよ?この授業出ないんですか?」

「あ、俺、ここの学生じゃないんで…。」

里華「そうだったんですか…!時間割持ってるからてっきり…。」

「これ学生課?ってとこに置いてあったから、もらってきたんすよ。」

里華「あー!ありますよねー。」

「で、あのー…伝言を…。」

里華「あ!すみません。何でしょう?」

「あの…俺、佐野っていうんですけど…」

里華「はい!佐野さん………佐野…佐野くん?!」

「え?」

里華「佐野浩貴くん?」

浩貴「…そうですけど…え、知り合いだっけ?」

里華「いやいやいや!あたしが咲から話に聞いてて勝手に知ってるだけで…。」

浩貴「咲の友達?」

里華「はい!大学入ってからずっと仲良くさせていただいてます!」

浩貴「ふは。何でそんなかしこまってんの?」

里華「な、何となく…。」

浩貴「おもしろいなー…あ!ひょっとして、咲が大学入ってすぐできた友達ー…?」

里華「あ、多分それです。」

浩貴「じゃ、事情知ってんのか。咲と別れる前に聞いたことあるかも。」

里華「あ、横井です、横井里華って言います。」

浩貴「横井さんね。」

里華「あの…咲に電話してみます!」

浩貴「迷惑かけて悪いね。」

里華「いえ。佐野くんがあたしに偶然声掛けてくれたこと意味があると思うんです。」

浩貴「…」

里華『もしもし?咲?佐野くん来てるよ。早く戻って来て!どこの自販まで行ったのよ!
   …本当だって。いいからとにかく早く戻って来て!…咲!』


電話で強く名前を呼ばれたあたしは、里華が言ってることは冗談ではないと確信した。

そもそも、里華がこんな冗談を言うわけないんだけど…。

あまりにも信じられなさすぎて、疑うしかなかったんだ。


何で浩貴が大学にいるの?

昨日、置き去りにしたのに…。


何で?


あたしは、わけがわからないまま、教室へと走って戻った。


咲「里華!」

里華「あ、咲!」

咲「・・・どういうことなの?」


浩貴「こういうこと。」


後ろから、確かに昨日聞いた声が聞こえて、あたしは振り返った。


咲「・・・浩貴!」

浩貴「話したいことあるんだけど…今から受ける授業終わったら時間ある?」

咲「う、うん。」

浩貴「じゃ、どっかで待ってるから…わかりやすい場所ある?」

咲「あ、じゃあ…エレベーター降りて、1階にあるラウンジ…。」

浩貴「わかった。そこにいる。」


そう言って浩貴は行ってしまった。


《ゴトッ》


あたしは、驚きすぎて買ってきた缶紅茶を落としてしまった。


里華「…大丈夫?」


そう言って、落とした缶紅茶を拾ってくれた。


咲「………!」


何で里華と浩貴が一緒にいたのか、

聞きたいことはたくさんあったのに、なぜか言葉が出てこなくて、

あたしは表情だけで里華に伝えようとしていた。


里華「うんうん。言葉にならないよね。」

咲「な、なんで!」


浩貴との会話後にやっと出した第一声はそれだった。


里華「偶然、声掛けられて…咲に伝言頼まれたんだけど…名前名乗ってくれて佐野っていうからさー…まさかと思ってね。」

咲「あ…。」

里華「ま、続きは教室の中で話そ?先生来る。」


ふと前を見ると、先生が前から歩いてきて、同時に、3限始まりのチャイムが鳴った。

後ろの席のに座って、あたしから里華に声を掛けた。


咲「…里華。」

里華「ん?」

咲「あたし…さっき里華に言われたこと、飲み物買いに行く間ずっと考えてたんだ。」

里華「うん。」

咲「そしたら、随分遠くまで歩いて行っちゃったの。」

里華「あらら…。」

咲「それで…里華から電話もらって思ったんだけど…あたし…会いたかった。」

里華「うん。」

咲「浩貴に会いたくて走って戻ってきた。」

里華「そっか。」

咲「あたし…まだ浩貴のこと好きなんだ。」

里華「そう。じゃあ…その気持ちちゃんと伝えなくちゃね。」

咲「…」

里華「想いは言葉にしなくちゃ。」

咲「…うん。」


里華からもらった言葉たちを大切にして、ちゃんと想いを伝えよう。

今度こそ、素直な気持ちを伝えよう。



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