音楽が大好きだった。 ずっと、ピアノを続けてきた。 …と、言ってもクラシックではなくて、ポップスばっかり。 クラシックももちろん、弾けるけど、あたしが好きなのは邦楽。 中学生だったあたしは、仕事にしたい、という気持ちも出てきた。 だけれど、音楽で食べていくなんて無理に決まっている、と 気付いたのが最近。 関東都市部に住んでいるならどうにか叶うことかも知れない。 でも、ここはやっぱり今でもあたしの中では田舎だ。 * 今日は入学式。 憧れの高校生活。 椎名紗依、16歳 あたしは産まれてからずっとN市に住んでいた。 県内では、わりと都会的で気に入っていた。 きっと、あたしは地元の高校に進学をし、 ずっとN市に住んでるものだと思っていた。 しかし、両親の都合で高校から引越しが決定。 O市へと来た。 N市に比べたら田舎にしか見えなかった。 でも、幸い、中学でも仲の良かった唯も一緒に来てくれることになって、 あたしは安心した気持ちでO市へ来た。 中学時代からの友達、矢沢唯は、 1人で関東の都市部から、中学1年のときに来た。 N市に、おばさんの家があるということで、そこに住んでいた。 そして、今年から、おばの家を出ることを決めていた唯は、 あたしの引越しに連れ添うかたちで、 ほぼノリで一緒にO市に来て、この春、あたしと同じC高に入学する。 あたしには、彼氏がいた。 中学1年の夏から高校1年の夏まで付き合っていた。 あたしの引越しが決まったときも、彼は「別れよう」なんて 言わなかった。その優しさにあたしはきっと甘えてたんだ。 遠恋ということの辛さを知らずに。 今、思えばたかだか16歳で知ることなんか無理だろうけども。 あたしは、C高で素敵な友達と出会った。 毎日、一緒にいた。毎日、バカ騒ぎをした。 そして、暮らしているうちに彼氏より友達が優先になった。 あんなにも好きだったのに、いつの間にか連絡を入れるのは、 彼氏の方ばかりで、あたしは全くを持ってしていなかった。 終わって当然の恋だったんだと思う。 1.高校1年生-夏- 閉じる