あたしは、伸哉との大切な何ページもの記憶を思い出していた。 10クラスある中で、偶然にも3年間同じクラスだった。 この3年は、本当に濃かった。 些細な出来事での言い合い。 今思えば、笑い話だけど。 何で言い合ったのかさえ、謎だったり。 学校行事での買い出し。 たかが買い出しなのに、リーダーに書いてもらったメモの通りに物を揃えていくだけなのに、 何でか余計なものばかり、カゴに入っていって、 最初は止めていたけど、段々とおもしろくなっていって、 最終的には収拾がつかなくなって、帰った後にリーダーに怒られ、 無駄な買い物の代金を自腹切らされて、あたしたち2人が買い出し係のブラックリストになったり。 全てが楽しかった。 何があっても平気だと思ってた。 どこからきた自信なのかわからないけども。 時間は動き続ける。 ずっと、なんて友達のあたしたちにはないのに。 そばにいて欲しい。 一緒にいられることが幸せ。 そう気付けたのはいつのことだったかな。 恋。 あたしは、伸哉に恋をしていた。 だけど、伸哉だけじゃなくって、 伸哉の周りにいる友達だって、優未だって、大切すぎた。 毎日、毎時間、毎分、毎秒までもが大切だった。 恋をしなくても、周りに自分を支えてくれる人がたくさんいた。 恋愛感情なんかで壊したくなかった。 だから、あたしは今も伸哉とは友達のまま。 だけど、もう違う。 春には離れてしまう。 伸哉のそばにいることができない。 あたしは何度も伸哉に力付けてもらってる。 進路希望調査の提出控えていた頃、どうしても自分に自信がなくって、 夢を叶えるのは無理だって決めつけたとき、 諦めないであたしを説得し続けてくれた。 付属の大学へ進むことを決めたけど、専攻が決まらなくて悩んだとき、 あたしの頭の中で、複雑すぎて絡まっていた糸を一緒に解いてくれた。 寒空の下、公園で。 ひとつひとつ丁寧に話を聞いてくれて、考えてくれて、 本当にあたしがやりたいことを見つけてくれた。 逃げ路ばかり探してたあたしに、前を見ることを教えてくれた。 一生忘れない。 亜樹「はぁー・・・。」 伸哉「…疲れた?って、お前少し顔赤くね?」 亜樹「え?大丈夫だよ?」 伸哉「無理すんなよー。」 亜樹「はーい。」 伸哉「あーのーさ…あのー…亜樹さ、俺・・・いなくなったら寂しかったりする?」 な・・・に? 何を聞かれたのかを頭の中で受け入れるのに時間がかかって、 理解してから、驚いて心臓が破裂しそうになった。 だけど、冷静を装った。 下手なこと言って、困らせたくないし。 亜樹「そりゃ、まぁ・・・。」 ・・・と思っていたら、可愛げなく答えてしまった。 伸哉「・・・だ、よなー?ずっと一緒だったし、寂しいよなー。」 そんなふうに言って伸哉は笑い飛ばしていた。 亜樹「そ、そこまでじゃないけど?」 あーあ。また、可愛げない。 伸哉「ははっ。亜樹、お前そこは、寂しい!って言っとけよー。」 亜樹「だって、本当のことだもーん。」 伸哉「可愛くねー。」 亜樹「どうせ可愛くないよーだ・・・。」 伸哉「あれ?スネた?」 亜樹「べっつにー。」 伸哉「ごめんて。亜樹は十分可愛いからさ。」 亜樹「何言ってんの。」 伸哉「…機嫌直った?」 亜樹「……」 伸哉「シカトかい!」 可愛いって言われて驚いた。 最初は、やっぱり可愛くないって言われちゃったけども。 結局、伸哉が何を思って聞いたのかはわからずじまい。 いつだって、希望が溢れだす小さな光を辿って、 あたしたちは前を向いて、未来を目指して少しずつ歩いてく。 伸哉がどこへ行こうとも、 いつか再び会えることを、いつまでも信じようと思った。 この気持ちは変わらない。 そんな会話が終わってから、数分経った後、 伸哉「あーーー!終わったーい!」 亜樹「お疲れさま。」 伸哉「おぅ。じゃ、お先ー。」 亜樹「あ、伸哉!ありがとう!」 伸哉「はいはーい。」 あたしはホチキスを止め終わって、 まとめ終わったプリントを職員室に持っていった。 職員室には、田原も相澤もすでに帰っていた。 何、あの人たち。 少しイラついた気持ちを持ったまま、 無意識に歩いていたら正門へ向かってしまっていた。 あ、間違えた。 …と気付いたのは正門が閉まっているのを見たときだった。 それから、裏門側へ回ったが、裏門もすでに閉まっていた。 だけど、そこには、伸哉が待っていた。 伸哉「亜樹、遅せーぞ?」 亜樹「間違えて正門行っちゃった。」 伸哉「あー…先来ちゃって悪かったな。」 亜樹「てか、帰ったと思ってた。」 伸哉「もう夜ですけどー?」 亜樹「え?」 伸哉「女ひとり残して先帰るほど腐っちゃいませんよ、僕。」 亜樹「僕って。」 伸哉「僕です。」 亜樹「紳士ぶっちゃって。」 伸哉「紳士ですから。」 亜樹「…」 伸哉「だから放置すんなよ!」 あたしが少しを下を向いていたら、 『ガタッ』と音がした。 伸哉は裏門を飛び越えていた。 亜樹「え!ビックリしたー…。」 伸哉「20時過ぎると裏門も閉まるんだよ。」 亜樹「知らなかったー。」 伸哉「亜樹は部活やってねぇし、こんな時間まで残んねぇもんなー。」 亜樹「うん。」 あたしたちは門越しに会話をしていた。 伸哉「ん!一人じゃきついっしょ?手ぇ掴まれ。」 亜樹「え、いいの?」 伸哉「超えなくちゃ帰れませんよ?」 亜樹「そ、そうだけど…。」 あたしは意を決して、手を差し出した。 『グイッ』 そんな効果音が聞こえるかのように、あたしはキレイに飛び越えた。 伸哉のあまりにもの力の強さに驚いた。 伸哉「大丈夫か?」 亜樹「あ、うん。平気・・・。」 本当は、握ってくれた手を離してほしくなかった。 でもそんなわけにも行かず、繋がれた手はすぐ解かれてしまった。 暗い暗い裏道をとぼとぼと、歩き始めた。 遅いあたしの歩調に自然とあわせてくれたり、あたしの家と反対方向なのに、 家の前まで送ってくれた。 すごく、すごく嬉しかった。 4.卒業、そして 閉じる