那海「んぇ?別れたの?」

莉乃「うん。」

那海「な、何で…。」

莉乃「あいつの浮気。」

那海「莉乃…大丈夫?」

莉乃「それがね…昨日、泣きまくったら意外とすっきり。」

那海「え、でも…振られたのは初めてなんじゃあ…。」

莉乃「さっすが那海。よくご存知で。」

那海「莉乃とは、高校からの付き合いだからね。」


加藤那海。

高校1年生のときに同じクラスで仲良くなった友達。

学部は違うものの、大学までも同じになったから、

今じゃ1番の仲良し。


莉乃「それでねー…遼ちゃんに会った。」

那海「え、高瀬さん?」

莉乃「そー。」

那海「あれ?引っ越したんじゃなかったっけ?」

莉乃「引っ越したというか、実家は出てったけど…でも近くには住んでたからさ。」

那海「そうなんだ。あたしてっきり、遠くに行っちゃったのかと…。」

莉乃「んーん。大学に入って、あいつと付き合い始めて、連絡取らなくなったらぷっつり切れただけ。」

那海「そうだったんだ。で?どこで会ったの?」

莉乃「公園。そこで泣いててさ…泊めてもらえたし助かったよ。」

那海「えぇ!泊まったの?」

莉乃「だって…那海、朝までバイトなの知ってたからさー。」

那海「別に…バイト先来てくれれば鍵渡したけど…ってそうじゃなくって高瀬さん家に泊まったの?」

莉乃「そうだよ?あ、先に言っとくけど何もないから。」

那海「なーんだ。」

莉乃「あるわけないじゃん。ただの幼なじみだし。」

那海「でもさ…幼なじみって1番恋愛対象になるんじゃない?」

莉乃「ならん!あたしと遼ちゃんの間に恋愛なんて絶対ないね。」

那海「変わってるねぇ。」

莉乃「そう?親友みたいなもんかな。」

那海「へぇ?」

莉乃「あ、でも同情で抱きしめてもらっちゃったけど。」

那海「…同情?」

莉乃「うん。落ち着くだろー、ってぎゅーって。」

那海「それ…同情なの?」

莉乃「だって、さっきも言ったけどあたしと遼ちゃんの間に恋愛感情がないんだからそれは同情でしょ?」

那海「…」

莉乃「あ、友情?うーん…」

那海「莉乃ってさー…意外と鈍感だよねぇ。」

莉乃「そんなことないよ。」

那海「ま、いーや。」

莉乃「ちょっと…何ー?」


あたしは、那海の言っていたことが気になっていた。

遼ちゃんが昨日、あたしを抱きしめてくれたのが同情じゃないなら…何?

恋愛感情ではないことはわかる。

だって、あたしのこと未だに、ガキとか言うし、手を出さない対象だって言うし。

じゃあ…友情。

でも友情で男が女を抱きしめるかな?

やっぱ同情だよなぁ。

彼氏に振られたかわいそうなあたしに同情した。


これが1番しっくりくる。

あたしの頭じゃどう考えたって、〔同情〕でしかない。


莉乃「んぁー!疲れた。やーめたやめた。」

那海「…莉乃?」

莉乃「え?」

那海「どしたの?いきなり大きな声で。」

莉乃「…あれ?あたし今、声出してた?」

那海「…」

莉乃「すみません。」


あたしは頭の中で考えていたはずなのに、

考えすぎて疲れたのか、声に出して〔疲れた〕と叫んだらしい。


とりあえず、授業始まる前で良かった。


莉乃「…あれ?」

那海「今度はどしたの。」

莉乃「携帯がない…。」

那海「え、落とした?」

莉乃「あれー…。」

那海「てか、莉乃。今日1度も使ってなくない?」

莉乃「そう…だっけ?」

那海「だって…今日は2限からでその間はずっと昨日のこと話してたでしょ?」

莉乃「そうだ…。うそー…落としたかなー…。」

那海「かけてみよっか?」

莉乃「お願い。」

那海「はいよー。」


那海があたしの携帯に電話をしてくれてる間に、

あたしはもう1度バックの中を探した。

最悪…。


那海「あ、もしもし?」

莉乃「え?出たの?」


那海はあたしに左手を黙ってというように出してきた。


那海「あのー…これ澤村莉乃の携帯ですよね?あたし友達なんですけど…」

『なっちゃんでしょ。』

那海「え?」

『俺俺。高瀬遼。』

那海「高瀬さん?!」

莉乃「え?遼ちゃん?」


あたしが喋るとまた、那海はあたしの前に左手を出した。


遼『そ。久しぶりー。』

那海「お久しぶりです!」

遼『莉乃が携帯忘れてってさ…なっちゃんの名前だったから出ちった。』

那海「そうだったんですか。」

遼『莉乃、いんの?』

那海「いますよ。代わります。」

遼『さんきゅ』

那海「莉乃。高瀬さん。」

莉乃「どういうこと?」

那海「莉乃が高瀬さん家に携帯忘れてきたんでしょ。」

莉乃「あ…。」

那海「はい。」

莉乃「ありがと。…もしもし。」

遼『莉乃?携帯、俺ん家置いてったろー。』

莉乃「うん、さっき気づいた。」

遼『メールが何件か来て1時間に1回は鳴ってんぞ。』

莉乃「ごめん。あとで取りに行くね。」

遼『わかった。』

莉乃「遼ちゃん、今日は家にいる?」

遼『ん?あぁ…今日は休みだから。』

莉乃「あたし…今日バイト休めなくて夜遅くなっちゃうけど…取りに行っていい?」

遼『俺はいいけど。』

莉乃「じゃあ…終わったら、バイト先の電話からあたしの携帯にかけるね。」

遼『おぅ。気ぃつけて来いよ。』

莉乃「はーい。」

遼『じゃ。』

莉乃「ばいばい。」


あたしは電話を切った。


莉乃「那海、携帯ありがと。」

那海「うん。見つかって良かったね。」

莉乃「ん。」

那海「あたしが口出すことじゃないかも知れないけどさー…」

莉乃「え?」

那海「莉乃はもう…恋をする気はないの?」

莉乃「うん。いいや。もう疲れちゃった。」

那海「莉乃…。」

莉乃「人を恋愛感情で好きになることが疲れるなら、友達のがいい。」

那海「そう。」

莉乃「心配してくれてありがとね、那海。」

那海「ん。いつでも相談乗るからね。」

莉乃「ありがと。」


それから、3限で授業が終わったあたしは、那海とわかれて、バイト先へ行った。

今日は腕時計を持ってなかったので、携帯がないと時間がわからなくて焦った。

バイトは16時からでギリギリ滑り込みでタイムカードを押した。

22時にお店を閉めて、今日の売り上げ集計と明日への引継ぎを、

何人かのバイトの子たちと行う。

あたしは、少しでも早く、遼ちゃんの家に行こうと急いで仕事をした。


莉乃「お疲れさまでーす。」

「お疲れー。」

莉乃「あ、店長。ちょっと電話借りていいですか?」

「おー。…って携帯は?」

莉乃「友達の家に忘れちゃって…これから取りにいくんですよ。」

「今から?大変だなー。」

莉乃「はいー。でも、ないと辛いんで。」


あたしは、自分の携帯に電話をかけた。


遼『はい。』

莉乃「あ、遼ちゃん?莉乃ー。」

遼『おぅ。』

莉乃「今、バイト終わったから行くね。」

遼『莉乃、バイト先どこ?俺行こうか?』

莉乃「大丈夫。15分あれば着くから。」

遼『そう?じゃ、待ってる。』

莉乃「じゃねー。」


あたしは、歩いて遼ちゃんの家に向かった。

まさか、昨日の今日で行くことになるとは思ってもいなかったので、自分でも少し驚いてる。

やっぱり、あたしはあいつと付き合っていたときだけ遼ちゃんを忘れられたのかな?

あいつと付き合っていたときだけ、遼ちゃん離れができてたのかな?

遼ちゃんからしたら大迷惑だよね。

こんな、ただのブラコンみたいなの。










*











《ピーンポーン》


莉乃「よ!」

遼「おぉ。もう夜中だし、声響くからとりあえず、入れ。」

莉乃「はーい。お邪魔しまーす。」

遼「遅かったな。いつもこんな時間までバイト?」

莉乃「うん、大体ラストまでだから。」

遼「そうなんだ。」

莉乃「正社員じゃないのに8時間労働だからねぇー…。」

遼「マジで…。」

莉乃「マジですよ。」

遼「お疲れ。あ、携帯、そこのテーブルな。」

莉乃「あ、ありがとー。あー…何か懐かしい!」

遼「1日手元になかっただけじゃん。」

莉乃「それでも。」

遼「俺、多分、3日は携帯なくてもどうにかなるんじゃねーかと思うよ、最近。」

莉乃「うっそ…。あたし携帯なかったら、時間すらわかんないよ。」

遼「ま、男と女じゃ違うんかもな。」


そう言いながら、遼ちゃんはタバコに火をつけた。


莉乃「そういうもんかなぁ。あ、そだ。遼ちゃん!携帯教えてよ。」

遼「ん?あぁ…そこにあるから勝手にやっていいよ。」

莉乃「え、いいの?」

遼「おー。」

莉乃「あいつ…元カレなんか絶対触らせなかったなー…。」

遼「よっ…。そうなんだ?」


遼ちゃんは「よっ」とか言いながら、あたしの隣に座ってきた。


莉乃「うん。触ろうもんならキレるかもね。」

遼「うへぇー。ありえねー。」

莉乃「そう?」

遼「そりゃ、他人に触られんのは嫌だけど…さ。」

莉乃「うんうん。でも、信頼してる人なら見られてもいいしなぁ。」

遼「そーな。」

莉乃「あいつは、携帯はプライベートだからダメだとか何だとか。」

遼「そんなかっこいいこと言って、浮気してんじゃどうしようもねー…あ。」

莉乃「いいよ。何言っても。もう好きじゃないし。」

遼「…無理すんなよ。」

莉乃「好きじゃないっていうか、好きじゃないって思うようにしたの。」

遼「へぇ。」

莉乃「ま、遼ちゃんにいっぱい慰めてもらったし、当分は大丈夫。」

遼「そっか。」

莉乃「でも…寂しくなったら頼って電話しちゃうかも。」

遼「俺はいつでもいいよ。」

莉乃「ありがと。遼ちゃんて本当優しいよねぇ?」

遼「ま、莉乃にはな。」

莉乃「やーだ。特別?」

遼「だったら?」

莉乃「て、照れるからやめてよ。」

遼「照れろ、照れろ。」

莉乃「遊ばないでよ!ガキ相手に。」

遼「ガキ?」

莉乃「遼ちゃんがそう言ったんじゃん!」

遼「そーいや、言ったっけか。」


そう言って、遼ちゃんは、あたしにグッと顔を近づけてきた。


莉乃「昨日のこと忘れたわ…へ…?」


あたしが顔をあげたら、すごく近くに遼ちゃんがいた。


遼「…俺の勝ち。」

莉乃「は?」

遼「莉乃ちゃん、顔真っ赤。」

莉乃「…んもーーー!」

遼「なーに。キスするとでも思った?」

莉乃「思いません!」

遼「どっちにしろ、顔近づけたぐらいで…なぁ?その先はどうすんだ。」

莉乃「べっつに平気だもん。」

遼「お、強気ー?」

莉乃「…帰る!」

遼「待てよ、送ってくって。」

莉乃「いいよ!」

遼「りーの。ごめんて。」

莉乃「…もう。」


それから、あたしは遼ちゃんに家まで送ってもらった。

時間は0時を回っていて、約2日ぶりの我が家は当たり前だけど何も変わっていなかった。

3.友達×恋=愛

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