【・・・ねぇ、君があの日にくれた四つ葉のクローバー覚えてる?】


「行ってきまーす」


朝、8時00分学校へ行く。

今は暑い暑い夏、真っ只中。

その中、自転車に乗って駅に向かう。


あたし、平野紗羽、4月に高校に入学したばかりの16歳。

高校に着くまで電車通学のあたしの定期入れには

小さい頃に遊んだ男の子にもらったクローバーを

しおりにしたものが一緒に入ってる。

あたしはあの頃、幼かったけれど確かに君が好きだった。

けど、もう名前もはっきりとは覚えてない・・・

ただ遠い記憶に残るのは『ヒロくん』って呼ばれてたことだけ。

多分、親に聞けばわかると思う。

でも、何かタイミングを失い続けてもう10年も経っている。

君はあたしにそれを渡した後、すぐ引っ越してしまったね・・


8時20分

高校の最寄駅についてここから歩いて15分

・・・ちょっと間に合わないかも。

朝のHRは8時30分


「やばいっ!!遅刻する!」

「紗羽ちゃーん!おはよ〜♪」

「茜!オハヨ。って遅刻するって!!あたし今日ギリだったんだよ?」


彼女は藤原茜、高校入ってからずっと仲良しのあたしの大事な友達


「あー・・・うん。あたしもそうなの。ヤバイよねぇ。走っとく?」

「当たり前っ!だって今日、金曜日だし遅刻したら今月やばいの。」

「マジで?紗羽ちゃんそんなに遅刻してたの?」

「・・・朝、弱いの。茜こそ珍しいじゃん」

「昨日ねぇ彼氏と会ってたら遅くなっちゃってねぇ・・・」

「あーぁ。ノロケちゃ嫌だからねぇ?」


・・・走りながらの会話ってものすごく体力を使う。

ましてや動きにくい制服で・・


「紗羽ちゃんは何で彼氏作らないの?楽しいよ?」

「・・・できないよ。」

「そうかなぁ〜??あ、そだ!彼氏に友達の紹介頼もうか?」

「いいってー・・・」


そういうのダメ。恋愛とか。あたしにはあのときの君しかいないから。


「・・ちゃん、紗羽ちゃん!!前っ!!」

「え・・?」


『ドンッ!!!』


そう言われて前を見たときはもう遅かった。

あたしはもう暗闇の中にいた。


「すっすみません!!!」

「あー。いいっスよ。つか、大丈夫?」


あたしがその人にぶつかったときは気づかなかったけれど

あたしの高校と同じ駅を使っている隣の高校の制服だった。


「大丈夫です。ホント、すみませんでした」

「紗羽ちゃん!平気・・・?」と茜が隣から来た。

「あ、うん。ゴメンね。」

「・・・紗羽?」とその人は言った。

「え?」

「俺、ヒロ!石谷弘(ひろむ)。覚えてない?ガキの頃さー・・」

「もしかして・・・ヒロくん?」

「そー!!俺、去年またこっち戻ってきたんだよ」

「そうなの?」

「紗羽ちゃーん。遅刻しちゃうよ?ってか遅刻だね。」と茜

「あっ!うぁぁぁぁー!!ヤバイっヤバイ!」

「あたしはいいんだけどね♪」

「・・何か時間ヤバそうだから・・これ、俺のアドレス、暇なときメールくれよ。」

「あ、うん。わかった。バイバイっ」


それからいつもと違う高いテンションのまま6時間授業を受けて学校は終わった。

夜、家へ帰って夕飯を食べ終わった後、自分の部屋でいろいろ考えてた。

正直、ビックリした・・・。

初めて知った名前。『弘』って言ってた

これから、また会えるのかな?

そう思ったらドキドキしてた。

光を失ってたあのクローバーが

また光を取り戻したかのようにも見えた。

茜は「そういうことかー。じゃあ紹介はいらないよねぇ。」なんて言ってたけど

あたしが今更、君・・ヒロくんを好きだって言っても

ヒロくんはびっくりするだけだと思う。

だから今は言わないよ


「あ、メール・・・送らなきゃ。」


本文にはあたしの名前を打った。

でも何か物足りない気がしたりして

他に幾つかの文を考えたけど思いつくことは1つで・・

そう、あたしの中にある君への想いは確かなもの・・・

ふざけ半分で・・


『あたしは小さい頃、クローバーをもらったあの日からずっと弘が好き』


なんて打ってみた。

・・・送ってしまおうか。

どうなってもいいじゃない、今の素直な気持ちを伝えるそれだけだっていい。

あたしの気持ちは大きくなりすぎてた。

今、もしだめでも幾らだって

未来はあるから・・・


『送信』


・・・その後のメールは1時間後も2時間後も受信されることはなかった。



---------・・・2日後。


もう来てほしくないとさえ思った朝が何事もなく明ける。

そして嫌でも時は進み・・


「紗羽ちゃーーん♪おはよ。」と茜

「茜ぇぇぇぇ!!!!」

「どどどどしたぁ?まだ遅刻じゃないよね??何、何?紗羽ちゃん??」

「言っちゃった。しかもシカトされてたりして・・」

「・・・?誰に何を?」

「弘に告っちゃった・・・」

「は・・・えっ!!ちょっ、展開早くない?しかも何、シカトって?」

「つい・・・でも、もう無理だよ・・・」


今日こそ学校に行きたくなかった。

だから、仕方なく来たっていう感じ

ため息をつきながら歩いてた。

その瞬間、後ろから急に肩を引かれた。


「なー、茜ちゃん?ちょっとこいつ借りるな。」といきなり声をかけられた。

「!!??弘?」

「どうぞ、どうぞ♪先に学校行ってるね。」と茜。

「お前、何なわけ?あのメール。すげービックリしたんだけど」と弘。

「あの通りだよ。あたしはずっと弘が好きだったから」


そうして定期入れに入ってるクローバーを見せた


「・・・それ?引っ越す前にお前にあげたやつ?メール、返さなくてわりー。
 ずっと考えてたんよ。俺はまだお前に対してのそういう気持ちわかんねぇけど
 ・・・とりあえず、友達からでどう?」


声なんか出なかった。

出し方も忘れそうなくらい嬉しかった。

クローバーをくれたことも覚えててくれた。

あたしの気持ちに精一杯応えてくれようとした・・・。

胸の奥から熱い想いが込み上げてきて、

それが涙になった。

そんなあたしを見てた弘は言う間もなく、すぐ抱きしめてくれた。

溜まっていた不安が一気に全部消えた気がした。


「何でも嬉しい・・・」


ようやっと言えた言葉。


「・・・じゃー・・・ケータイ番号教えてくんない?」

「・・・うん。」

「電話・・・すっから。」


あたしは今、世界中の誰よりも幸せだと感じてる。

ねぇ、これからも大事にするよ。


【君がくれた幸せを運んでくれる四つ葉のクローバー】



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2004/07/28

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